ウイルスの恐怖(特に鳥インフルエンザウイルス)

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はじめに
  今冬(2004.1月)もSARSがアジアを中心に広がる危険性が懸念されている。また、最近では鳥インフルエンザが大きな問題になっている。いずれも病原はウイルスによるものである。エボラ熱、エイズもウイルスである。カキなど二枚貝による食中毒も毎年冬季に多発するが、これもノロウイルスが原因である。コイヘルペスウイルスも問題になった。このように、最近、ウイルスによる事件が非常に多い。本号ではウイルスとはどんなものか、鳥インフルエンザの恐怖とは何かを考える。

ウイルスとはどんなものか
   細菌とはどんなものかをある程度認識している人は多いと思われるが、ウイルスを理解している人は少ないかもしれない。ウイルスとはどんなものかを知るために、病気や食中毒を引き起こす細菌と対比させてみた(表1)

写真:インフルエンザウイルス

  まず、構造上の違いは、細菌はすべての遺伝情報を持っており、細胞そのものであるが、ウイルスは部分的な遺伝情報しか持たない、完全な生物とはいえないものである。大きさも50〜100nmで、細菌(約1μm)よりはるかに小さく、肉眼や光学顕微鏡でも見ることはできないやっかいものである。細菌は500倍程度の顕微鏡でみえるが、ウイルスを見るためには電子顕微鏡が必要となる。

  ウイルスがいくら小さくても食品包装用のセロハンやプラスチックフイルムを透過することはない。ただし、紙、レーヨン紙、不織布、薄いアルミ箔など、微小でもピンホールがあれば透過する。

  細菌の場合は、カビや酵母と同じように、条件さえあえば比較的簡単に培養できるが、ウイルスの場合は自分自身では増殖できず、生物の細胞の中に入り込んで増殖し、また他の細胞に移ってさらに増殖する。増殖のスピードは速く、1個のウイルスが24時間で100万個にもなる。ウイルスを殺すには細胞も死滅させる必要があるので、人体に害のない治療法はないといえる。細菌と違い、抗生物質も効かない。ただ、エイズ研究などの成果で、ウイルスの増殖を抑える薬は開発されつつある。

  細菌の耐熱性は種類によってさまざまであり、大腸菌O−157のように70℃で死滅するものから、100℃以上のレトルト処理でも生き残るものがある。これに対してウイルスの耐熱性は強くない。一般には75℃、1分間以上の加熱で死滅するが、汚染された鶏肉などで、中心部分までの加熱が不十分な場合に残っていることがある。

  ウイルスの伝染は、食品からの感染と人や動物からの感染に分けられる。食品は十分に加熱すること、感染源には接触しないこと、十分な手の洗浄、うがいを頻繁に行うこと、特に鼻汁、気管支分泌物、糞便、血液などに対しては要注意である。SARSやO-157のときも同じであったが、特に年寄りと子供に被害が出やすい。

表1.ウイルスと細菌の違い一覧表

    ウイルス 細菌
構造 たくさんのアミノ酸とそれを包むコートタンパク質でできている

脂質でできた細胞質膜で覆われている.
細胞そのものである

大きさ

50〜100nm※1
電子顕微鏡でしか見えない
ウイルスがいくら小さくてもプラスチックフイルムを透過することはできない

約1μm ※2
500倍くらいの顕微鏡で見える
紙、レーヨン紙、不織布、アルミ箔などは細菌もカビも通過できる

増殖の仕方 ウイルス単独では増殖できない.人間など生物の細胞の中でしか増殖できない 環境さえ整えばどこででも増殖し、生き残る
発病の仕組み 細胞の中に入り込んで、細胞を壊し、いろいろな症状を引き起こす 毒素を発生させたり、他の細胞を溶かすなどしていろいろな症状を引き起こす
耐熱性 比較的熱には弱いが、貝類などで加熱不足の場合には生き残っており、中毒を引き起こしたり発病させたりする 耐熱性のないものから、レトルトでも生き残る耐熱性を持つものもある
抗生物質 効果なし 効果あり
治療法 危険な副作用なしでウイルスだけを殺す治療薬はまだない.しかし、増殖を抑える薬は開発されつつある 細菌感染とわかれば抗生物質による治療が主になる
主な病気 インフルエンザ、肝炎、オタフクカゼ、ハシカ、帯状疱疹、ノロウイルスによる食中毒など 結核、破傷風、多くの細菌性食中毒など

※1 1nm(ナノメートル)=10−9
※2 1μm(マイクロメートル)=10−6


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■鳥インフルエンザに関するQ&A

   ベトナムやタイでは鳥インフルエンザが大流行している。人への感染も確認されており、数人がなくなっている。我が国でも山口県で6千羽のニワトリが死んでいる。鳥インフルエンザウイルスは、ヒトへの感染によりウイルス遺伝子の再集合がおこり、新型インフルエンザが発生する可能性があることから、WHOがもっとも警戒しているウイルスである。もし流行すれば、世界で30億人に感染し、6千万(最悪の場合は5億人)が死亡するという予測もある。

Q:高病原性鳥インフルエンザとは、どのような病気ですか?

A:トリもA型インフルエンザウイルスの感染を受けますが、トリのウイルスはヒトのインフルエンザウイルスとは異なったウイルスです。鳥類のインフルエンザは「鳥インフルエンザ」と呼ばれ、このうちウイルスの感染を受けた鳥類が死亡し、全身症状などの特に強い病原性を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼びます。鶏、七面鳥、うずら等が感染すると、全身症状をおこし、神経症状(首曲がり、元気消失等)、呼吸器症状、消化器症状(下痢、食欲減退等)等が現れ、鳥類が大量に死亡することもまれではありません。

Q:これまでにどのような国で発生していますか。

A:香港(H5N1型:1997年,2003年)、米国(H5N2型:1983年,2003年)、オランダ(H7N7型:2003年)、ドイツ(H7N7型:2003年)、韓国(H5N1型:2003年)、ベトナム(H5N1型:2004年)等世界各地で発生しています。日本では、79年ぶりに山口県で発生しました。

 タイでも大流行しており、最新情報ではインドネシアでも大量発生しているという(2004年1/26)。

Q: これまでにヒトに感染した例はありますか?

A: 1997年香港においてH5鳥インフルエンザに18名が感染、6名が死亡していますが、ヒトからヒトへの感染はありませんでした。2003年2月、同じく香港においてH5鳥インフルエンザウイルス感染が2名で確認され、うち1名は死亡していますが、その後の感染の拡大はありませんでした。2003年3-4月オランダではH7鳥インフルエンザウイルス流行の際に、防疫に従事したヒトを中心に数十人のヒトが結膜炎を、十数人インフルエンザ様症状を呈しました。死亡した獣医師1名の肺から鳥インフルエンザウイルスH7N7が分離されており、家族内でのヒトからヒトへの感染が疑われています。

    鳥インフルエンザが大流行しているベトナムではすでに7人が感染し、6人が死亡している。タイでも1人死亡している(1/26現在)。

Q: どのようにヒトに感染するのですか?

A: これまでのところ、香港などのように店頭での生きたニワトリの小売りが一般的な地域において発生した感染事例や、防疫業務に携わった人の感染事例など、まれにトリからヒトへの感染は見られた(数十例ほど)ものの、ヒトからヒトへの感染についてはオランダで疑わしいとの報告がわずかにあるのみです。またヒトが鳥インフルエンザウイルスの感染を受けるのは、病鳥と近距離で接触した場合、またはそれらの内臓や排泄物に接触するなどした場合が多く、鶏肉や鶏卵からの感染の報告はありません。

Q:ヒトにはどんな症状がでますか?

A:オランダの例(H7型)では結膜炎が主な症状でしたが、一部の感染者では呼吸器の症状も見られています。香港の例(H5型)では発熱、咳などのヒトの一般的なインフルエンザと同様のものから多臓器不全に至る重症なものまで様々な症状がありました。死亡の主な原因は肺炎でした。

Q:ヒトではどのような予防方法がありますか?

A:鳥インフルエンザに対する有効なワクチンは、現在のところありません(研究、開発が行われています)。本人の万が一の感染を避けるために、また付着したウイルスを他の地域のニワトリに拡げないために、鳥インフルエンザの流行が見られている鶏舎などへの出入りは、用事のない限り避けて下さい。用事があって鶏舎に出入りするときは、手袋、医療用マスク、ガウン、ゴーグルなどの着用、手洗いの励行などの、基本的な感染予防対策が必要です。

 通常の生活の中で、現段階では鳥インフルエンザウイルスに関する特別な予防を行う必要はありません。

Q:ペットでニワトリや小鳥を飼っていますが大丈夫ですか?

A:これまでの科学的知見によれば、鳥インフルエンザが鶏やアヒルの他にも、色々な種類のトリに感染することが知られていますが、国内で鳥インフルエンザが発生したために、これまでペットとして家庭などで飼育していたトリが直ちに危険になるということはありません。
  トリや動物は、ヒトへの感染の有無は別として、ヒトとは異なるウイルスも、ヒトと共通のウイルスも保有することが知られています。
  トリに限らず、動物を飼う場合は、動物に触った後は手を洗うこと、糞尿は速やかに処理して動物のまわりを清潔にすることなどを心がけることが重要です。また、動物の健康状態に異常があった場合は獣医さんに、飼い主が身体に不調を感じた場合は早めに医療機関で受診することも大切です。

Q:ヒトのインフルエンザワクチンは鳥インフルエンザに対して有効ですか?

A:現在使用されているヒトのインフルエンザワクチンはヒトの間で流行しているAソ連(H1N1)、A香港(H3N2)、およびB型に対して効果のあるもので、H5やH7などの鳥インフルエンザに対しては効果がありません。

Q:鳥インフルエンザにヒトが感染した場合、どのような診断方法と治療方法がありますか?

A:鳥インフルエンザはヒトで流行しているソ連型(H1N1)や香港型(H3N2)とは異なりますが、大きな分類ではいずれもA型インフルエンザウイルスに属するものです。ヒトのA型インフルエンザウイルスの診断に使う迅速診断キットで、鳥インフルエンザウイルスを検出することは可能ですが、どの型のウイルスに感染したかの同定は、分離されたウイルスの抗原解析や遺伝子の検査など、さらに細かい解析を行う必要があります。A型インフルエンザの治療に用いられている抗インフルエンザウイルス薬も、鳥インフルエンザに効果があるといわれています。

Q:鶏肉や鶏卵を食べて、感染することがありますか?

A:食品としての鳥類(鶏肉や鶏卵)を食べることによってヒトが感染をした例はありません。

Q:高病原性鳥インフルエンザウイルスが存在した鶏肉や鶏卵を食べても大丈夫ですか?

A:我が国では、これらの病原性の高い鳥インフルエンザは、家畜伝染病予防法上、家畜伝染病(法定伝染病)として位置づけられており、発生した場合は、鳥の間での拡大を防ぐために発生の届出、隔離、殺処分、焼却又は埋却、消毒等のまん延防止措置が実施されることになります。したがって、これらの感染鳥やその卵が食品として市場に出回ることはありませんし、食品としての鶏肉、鶏卵などからの感染はないと考えられます。なお、インフルエンザウイルスは、加熱(中心温度が75℃で1分)により死滅します。

Q: 山口県の事例への対策は、どのようなものですか?(感染した鶏の処分は?)

A:今回の事例では、ニワトリでの高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されたものであって、ヒトへの感染は確認されていません。 現在、農林水産省では、以下のような、家畜防疫の観点での対応を進めています。
・当該農場の飼養鶏全羽の殺処分、消毒
・半径30km以内の区域の周辺農場における移動の制限、疫学調査の実施
 また、厚生労働省では、ヒトへの感染の防止や、万が一の患者の発生に備え、以下の対策を進めています。
・これまで、鶏肉や鶏卵の摂取によるヒトへの感染は報告されていないものの、念のため、当該農場に対し、出荷された鶏卵の自主回収、関係者の健康状態の確認、感染防御の徹底を指導
・万が一、患者が発生した場合に備えて、医療機関などに高病原性鳥インフルエンザが疑われる患者に関する情報提供の協力要請など、迅速な情報の把握

 このような取組を通じて、ヒトの健康被害の発生防止に努めています。

Q:外国でも発生していると聞きますが、海外旅行は大丈夫ですか?国内での旅行や移動はどうでしょう?

A:現段階では、鳥インフルエンザウイルスの発生を理由に発生国への渡航の自粛、中止などの必要はありません。また、国内の旅行、移動も同様に、鳥インフルエンザウイルスの発生を理由にその土地への旅行や移動の自粛、中止などの必要はありません。但し不用意、無警戒に流行地の生きた鳥類のいる施設への立ち寄り、接触などは行わない方がよいでしょう。

 このQ&Aは国立感染症研究所感染症情報センターのホームページから抜粋、編集しました。

http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/QA040113.html

 


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